富士山登山鉄道(LRT)構想、に代わる【河口湖循環LRT構想】に関するまとめ
令和元年(2019年)に検討会の第1回理事会が行われた「富士山登山鉄道構想」ですが、さまざまな賛否が巻き起こっています。と言いたいところですが、地元周辺では賛成の声はほとんど聞かれず、反対意見や無関心な意見が大半です。
なぜこの構想が企画されたのかをまとめながら、当サイトの意見やアイデアも織りまぜていきます。ただし、ここで表現されるアイデアは技術的、経済的または環境面や行政関係の裏付けは一切ありませんので、一つのファンタジーとしてお楽しみください。
まず、当サイトのスタンスとしてはこの構想に『反対』です。理由は、
- これ以上、神聖な富士山に大規模に手を加えて欲しくない
- 日本を代表する富士山を、山梨県の主導でこのような改造を加えてよいのか疑問がある
- 感情的に富士山に列車を走らせたくない
この考えのもと、現在の河口湖~富士山観光が抱える問題解決のアイデア、富士山登山鉄道の代替案を含めてまとめていきます。
富士山登山鉄道構想の背景
そもそも富士山登山鉄道構想が始まった主な理由は、以下が挙げられます。
- 自然環境への負荷を減らすため
- 富士山五合目のインフラ整備(上下水道、送電設備の敷設)のため
- 富士山五合目における「景観と調和のとれた来訪者施設」整備のため
富⼠⼭の保全と利⽤に関する現状より
など、ユネスコ事案も含まれ改善しなければならない問題もあります。しかしながら、これらの問題は他の手段で解決できる可能性もあり、富士山登山鉄道の敷設が唯一の解決策とは限りません。主たる目的は総合的な富士山観光の是正であって富士山登山鉄道の敷設ではありません。富士山登山鉄道はあくまでも問題解決の副次的な要素となります。
つまり、他の案で解決できるのであれば富士山登山鉄道を新たに敷設する理由はなくなります。
富士山登山鉄道の代替案
すでに夏の期間に実施している「富士スバルライン マイカー規制」をそのまま応用すれば解決します。原則、五合目までの富士スバルラインは1年を通じて全ての一般車は通行禁止にし、麓の駐車場から電気バスを走らせればいいでしょう。検討会でも意見が挙がっていた「立山方式」の採用です。
※そもそもこのアイデアは当サイトが提言するまでもありませんが、県の検討会ではなぜか富士山登山鉄道ありきで話が進み、それにより諸問題が解決すようにまとめられています。バスの扱いは本当に些末です。このあたりの経緯を順を追ってまとめていきます。
富士山登山鉄道構想の始まり
記録上では、2013年から2015年にかけて実施された環境調査で、富士山スバルラインへの鉄道敷設が提案されました。それ以前は、電気バスや低公害バスといった案も検討されていましたが、富士五湖観光連盟による「富士山の環境と観光のあり方検討会」にて現在の構想に繋がる素案が発表されています。
過年度調査の概要
1. 富士山及び山麓地域における環境負荷の抜本的改善策
(1)入山者数を確実にコントロールし、自動車の排気ガス、廃棄物不法投棄等の環境問題を抜本的に解決するため、スバルラインに鉄道を整備する。また、鉄道整備完了後は緊急車両を除く一般車両の通行を禁止する。なお、富士山五合目アクセスを自動車・バスから鉄道に転換することで年間約1万2千トンのCO2を削減できる。
富士山の環境と観光のあり方検討会報告書(富士五湖観光連盟 平成27年5月)より
また、同「過年度調査の概要」ではバス、LRT、その他交通の比較表がまとめられています。この比較表では、バスがLRTや他の交通手段よりも劣っているよう評価されているように見えます。なぜ、鉄道やLRTが「自然景観と調和したデザイン」が◯なのに対して、バスは△なのか。同様に「年間を通じた安全・安定運⾏」「緊急時の輸送⼒増強」が✕に。しかもこの時点ではLRTの「スバルラインの利⽤」は✕になっています。
この資料から、最初は鉄道ありき(バスは除外)で始まった構想が、途中からLRTに移り変わってきた流れが汲み取れます。鉄道だと架線の設備が景観を損ねるなどの問題があったため、LRTへと構想が変化したのでしょう。ただし、当初の時点でLRTは「勾配対応が困難」✕と判断されていました。
※富士五湖観光連盟は2024年現在、「富士山登山鉄道に反対する会」の代表を務めるなどし富士山登山鉄道に反対しています。
シャトルバスの問題点とは
同報告書において、「富士スバルライン マイカー規制」のときに運用されているシャトルバスの問題点として挙げているのが以下となります。
- 夏季にはマイカー規制を実施しているものの、多くのシャトルバス・観光バスにより大量の登山者、観光客が入山しており、季節的集中を平準化する必要がある。また、シャトルバス・観光バスは麓と五合目をピストン輸送しているため、ある底下山し、途中からバスに乗車する等の多様な観光形態がとれない状況にある。
- 山梨県の富士スバルライン五合目の入込客数の多くが夏季に集中しており、冬季において、五合目の観光客が激減する理由として、スバルラインが路面凍結等により通行止めになることが挙げられる。そのため、冬季においても五合目にアクセスできる交通の検討が必要である。
- マイカー規制期間中には、シャトルバスが高頻度で運行されているものの、再混雑時には北麓駐車場や五合目においてシャトルバスを待つ観光客で長蛇の列が生じており、観光客へのサービス向上(利便性・快適性)の観点から、五合目アクセスサビスの見直しが必要である。
富士山の環境と観光のあり方検討会報告書(4. 3. 3 観光に関する課題)より
これはあえて言うまでもないのですが、登山鉄道(LRT)にしたところで同様の問題が解決するわけではなく、論点をずらしただけの内容に過ぎません。
富士山登山鉄道(LRT)構想に関する、一旦のまとめ
これまでの検討会を振り返ると、まず「ヨーロッパのような山岳鉄道を作りたい」という県の願望があり、そこからあと付けで問題点や修正案が加えられているように感じられます。
登山鉄道の構想自体も、
登山鉄道の話が出たのは、景色を見ながら五合目に上がれたら良いというのが発端だった。システムについては専門家で煮詰めていただき、理想に近いものになれば良い。
第3回理事会 議事概要より
くらいの状況でした。
第2回の理事会(検討会)において、
勾配が何度以上になるとラックレール式にする必要があるか。
(一般的な鉄道が採用する粘着式は、国内では 80‰(1,000m進む間に 80m上る)が最高。その辺りが目安になるのではないか。第2回理事会 議事要旨より参考:スバルラインの最大勾配は約8.8%、平均勾配5.2%、最小曲線半径は27.5m
などの意見があるなど「鉄道」という構想で始まり議論が重ねられましたが、環境や景観破壊に繋がる架線敷設工事の影響、または緊急車両の通行が困難などの理由からLRTへと話が変わっていきます。となると、そもそもこの時に出た「勾配が云々」の意見はまったく別次元の問題となってしまいます。
電気バスに関してはほとんど語られることもありません。電気バスであれば、立山でもみられるように混雑時は時間あたりの台数を増やすなど、LRTよりもよほど柔軟な運用も可能です。
バスの除外
令和2年1月30日に行われた「第4回理事会(検討会)」にて、初めてバス除外の記述があります。
富士山の連続勾配に適用できないシステム:「電動バス」
話題性・先進性に欠けるシステム:「トロリーバス」
富士山登山鉄道構想 中間報告骨子(素案)より
物理的な実現実性がないならまだしも、「話題性・先進性に欠ける」という理由で簡単に除外されてしまうことに疑問が残ります。また「連続勾配に適用できない」という理由も、どこまで技術的に突き詰めたものなのか、判断基準とされたデータが見当たりません。繰り返しになりますが、「バスは始めから構想論外」という方向性で議論がされている点に不信感がつのります。
専門家ではないので、この電動バスの勾配性能に関する正確なデータを示すのは難しいのですが、実質20%~26%の勾配は現実的であるようです。少なくとも富士山の最大斜度、8.8%には「適用できない」とはならないでしょう。
2基の乗用車用モータがギヤ比 4.88 の大容量減速機に連結され(減速機出力軸最大トルク 3000Nm),プロペラシャフト,最終減速機(ギヤ比 5.571)を介して発揮される駆動力は最大33kN 程度を実現し,勾配20%の坂を登坂可能と予測され,現行のディーゼル路線バス並の動力性能をカバー出来ている.
普及型EV路線バスの性能計画と実証より試験走行したのは同社が開発するEVバス「Catalyst E2」。モーター2つを搭載し、昨年の段階で航続距離1770キロを打ち立てた。これだけでもかなり驚異的だが、今回の傾斜のある道路でのテストでは既存のディーゼルバスを超える性能であることが確認された。ディーゼルバスだと走行できる最大傾斜は12.4%なのに対し、Catalystは26%。傾斜5%時のトップスピードもディーゼルは時速56キロだが、Catalystは時速94キロ出た。
「Proterra」の電気バス、急勾配でもスムース走行でディーゼル超え!より
LRTの危うさと安全課題
逆にLRTの勾配性能としては、
- 宇都宮ライトレール:最大勾配は5%
- 富山ライトレール:最大勾配は6%
と、公共交通機関として安全を担保した上で運用するとなると6%前後が現実的な上限となりそうです。しかもこれは一部区間の「最大勾配」であり、富士山は平均勾配5.2%の坂道を約25km上がり続けなければなりません。もちろん帰りは同様の下り坂がずっと続きます。
県の資料において、LRTの適応勾配「13.5%(ポルトガルリスボン路面電車)」と例を出していますが、これは世界一の斜度であり、単に限界性能としてならまだしも適応勾配としてこれを参考にするのはいかがなものかと思います。
また技術的な課題として以下のように認識されている上で、さらにここに安全性を担保するとなると不安な気持ちは大きくなります。
海外の鉄軌道事例等において、8%前後の勾配に対応可能な車両は存在するが、LRTによる20km以上の連続勾配走行や極低温下での走行事例は確認できていない。
富士山登山鉄道構想(案)より
仮に地震やスラッシュ雪崩などがあり、富士山に敷かれたレールの一部でも変形することがあればLRTは通過ができなくなります。まして、送電ケーブルが断線でもすれば一切動くことができなくなります。これでは災害時の輸送をまかなう云々の話以前の状況となります。
県におかれましては、地元等への説明や意見聴取について以下のように述べられてるように、とにかくきちんと納得できる説明をして欲しいところです。
登山鉄道は、地元の皆様から祝福されることが必要。
地元が納得して賛成するプロセス、情報提供が重要であり、詳しい専門家に意見を聴きながら進めるべき。
第3回理事会 議事概要より
河口湖循環LRT構想
それではここから、富士山登山鉄道(LRT)構想に代わるる河口湖循環LRT構想の夢物語をまとめていきます。一地元民としては、よっぽどこの「河口湖循環LRT構想」を推進して欲しいと思っています。
観光地ゆえの問題点
まず、日本の主だった観光地ではどこも同じ問題を抱えていると思いますが、観光客や訪日外国人が増えて喜ぶ住民は少ないでしょう。河口湖では「富士山ローソン」の問題が全国区で放送され、いわゆる観光公害の問題を改めて考えるきっかけとなりました。住みにくくなる町になるのは誰も嬉しくありません。
観光客が増えることで住民生活が著しく不便になります。普段利用していた公共交通機関が使えない、道が混雑して移動が困難に、道端にゴミが増える、住宅や敷地への不法侵入、早朝から深夜まで家の近所を団体で大騒ぎ、挙げたらキリがありません。
県や行政は観光客を増やす施策には一生懸命ですが、住んでいる住民へのフォローはほとんどないと言っても過言ではありません。観光客以外にも問題があります。その観光客を目当てに、外部の資本も含めどんどん観光地に流れ込んできて、いたるところ賑やかになってきます。
河口湖でいえば、山肌はどんどん切り崩されホテルが建ち、田舎の集落の中に突然ドーム型の宿泊施設やコンテナが表れます。本当にすごい勢いで、穏やかな住民生活が脅かされています。これは土地を売っている、貸している住民がいるわけで何とも言えない微妙な気持ちではありますが。
せまい道路には外国人が乗る自転車や電動キックボードがあふれ、逆走してくる人も多く事故の現場も目にします。レンタカーの数も多く、体感として町を走っている1/4くらいは「わ・れ」ナンバー、県外ナンバーは1/4程度でしょうか。レンタカーの事故も、毎週数件も発生しているとのことです(トヨタレンタカー河口湖店)。
富士山の混雑緩和や観光客の誘致も大事ですが、玄関口となる麓の整備や住民生活の安心にも目を向けて欲しいところです。
これらの問題解決の一助となる河口湖循環LRT
そこで富士河口湖町内の交通問題を一気に解決するのが、河口湖循環LRTです。離れたエリアに点在する観光スポットをLRTで結び、また主要な行政施設へも立ち寄ります。
モデルとすべき都市、路線はメルボルンのトラムです。メインの循環区域はメルボルン市内の要所や観光名所に必ず停まり、市内を縦横に張り巡らされた路線はどこに行くのにも便利です。徐々に郊外へも伸びていき、都市圏への往来も非常に快適です。
また観光交通としても優れており、循環するラインは1周50分程度と市内観光にもうってつけです。しかもこの循環ラインを含めた内側の乗降は全て無料です。
メルボルントラムネットワーク図 [PDF]
さらにメルボルンは、世界中から観光客が押し寄せるテニスの4大大会「メルボルンカップ」の開催地でもあります。これは実際に体験したのですが、開催期間中でもこのトラムのおかげで目立った混雑も混乱もみられませんでした。市民にも観光客にも本当に優しい交通システムです。
さて話を戻しますが、河口湖循環LRTの敷設により解消される問題や改善されることは、
- 町内の渋滞緩和
- 観光客の移動の利便性
- 町民(特に老人)の移動の利便性
- バスの減便による渋滞緩和
- 行きにくい観光スポットへの分散
など、いくらでも挙げられます。もちろん敷設に付随する問題は多々ありますが、まずは町内で議論に挙がってもいいのではないでしょうか。
実際に良く目にする「バスの乗降車が分からない訪日外国人」「離れた観光施設に行きたいのに行けない」「移動が電動キックボードで危険」などが解消されます。
河口湖循環LRTの路線案
主要な施設を循環しつつ、敷設もできるだけ現実的な内容という前提で考えると以下のようになります。
住民として繋がると便利な場所
- 河口湖駅
- 町役場
- 山梨赤十字病院
- 大型スーパー(BELL)
- 中学校、高校
観光客が不便で行きにくい場所
- 大石公園
- 浅川周辺のホテル
- 富士山世界遺産センター
実際の想定ルート
赤色が循環ライン、青色が湖畔ライン。循環ラインは複線、湖畔ラインは用地の関係上単線を想定。あくまでも基本的となる路線であり、将来的に必要に応じて延伸も考慮します。
山梨県知事殿、富士河口湖町町長殿、観光客と地元民が融合できる町づくりの一環として、ぜひ全国に先駆けたモデルを展開してみませんか?
また、百歩譲って富士山登山鉄道(LRT)を実現するとしたとき、丘陵の多い富士河口湖町でLRTを運営したノウハウや実績が、かなり生かせるのではないでしょうか。
そうして確実な安全が担保できるようになれば、地元民の意識も変わってくるかと思います。
まとめとして
こんなふうに町内にLRTを通すなら、既存のインフラを活用したバス路線の整備を優先すべきと思いませんか? 問題があるなら何年も議論に時間をかけず、また工期も予算もかかるアイデアよりも実現性のあることを優先すべきと思いませんか? 私たちはそう思います。
富士山や河口湖周辺の観光課題は、議論よりも迅速な対応が求められると感じています。